想像してみてください。
これまで安定して仕事を受注できていたメインの元請けから「大事な話がある」と言われて呼び出されました。
「競合他社との価格競争に最近勝てなくなってきている。建設費全体を下げたいから、そうなると塗装にも予算はもうさけない。次回以降の工事から、そちらにも単価を下げて協力してほしい」
この言葉を聞いたとき、あなたならどのように答えられるでしょうか?
元請けの経営状況や方針転換によって、理不尽に近い条件を提示される場面は誰しもが経験しうることです。
そこでこの記事では、大きく分けて以下の3つの道を考えてみます。
1. 不満を抱えつつも安い単価で下請けの仕事を続ける
2. この元請けからの仕事を減らして、別の会社の下請けに主軸を移す
3. 自社物件を増やして最終的には自分が元請けになる
それぞれの選択肢を選んだ際に起こりうるメリットやデメリット、そして具体的なリスクや将来像を見ながら、自分が選択すべき道をじっくり検討していきましょう。
1. 不満を抱えつつも安い単価で下請けの仕事を続ける
まず最初に考えられる選択肢は、なんとか会社を存続させるために、元請けから提示された低単価の仕事を引き受け続けることです。
塗装業界においては「一度失った仕事は二度と戻ってこない」というケースが少なくありません。
特に中小企業や個人事業主の場合「今まで仕事をくれた元請け」との関係性を切るのは大きなリスクです。
仕事がまったくなくなってしまう恐怖や、家族の生活を守るためにはやむを得ず受け入れざるを得ない状況もあるでしょう。
しかし、この選択肢には以下のような問題点が潜んでいます。
1.1 利益を確保しづらくなる
既にギリギリの収益率で回していると、さらに単価が下がると利益がほとんど出なくなる危険があります。
もともとの人件費や材料費などの経費を削減しきっている状態で、さらに圧縮せざるを得なくなるのは苦痛です。結果的に、従業員を増やすどころか減らさないと維持できないケースも出てくるでしょう。
1.2 頼りになる有能な協力業者を呼べなくなる
経費がかさんでしまうため、必要な時に外部の有能な職人や協力業者を頼む余裕がなくなります。無理に自分や少人数で仕事を回そうとすると、ミスや品質低下のリスクが高まり、クレーム対応に追われる可能性も増加します。
1.3 他の仕事を受ける余裕がなくなり全体の効率が落ちる
安い単価の仕事を量でカバーしようとすると、心身ともに負担が大きくなります。朝早くから夜遅くまで働いても、それほど利益が増えないまま疲労だけが積み重なるのです。結果として、新しいビジネスチャンスを探す気力や時間も削られてしまいます。
この「不満を抱えつつも仕事を続ける」という道を選ぶと、確かに目先の仕事の量は確保できるかもしれません。
しかし、それは体力や時間の消耗戦になりやすく、長期的に見るとマイナス面が大きいのも事実です。「体力も人材も無限ではない」という認識を持って、今後のことを考える必要があるでしょう。
2. 元請けの仕事を減らして別会社の下請けに主軸を移す
次に考えられる選択肢は「今の元請けに頼りきるのをやめて、新しい取引先を探す」という道です。
これは安易なようでいて実は勇気が必要な行動でもあります。なぜなら、長年取引していた元請けをある程度切り捨てる形になる可能性もあるからです。
人間関係、信用問題などの懸念があり、一歩踏み出しにくい方も多いでしょう。
しかし、元請けが値段を下げてでも仕事を回してくる背景には、景気動向や価格競争などの大きなうねりがあります。
今後、元請けの業績がさらに厳しくなることも十分考えられ、安定的に仕事が回ってくる保証はどこにもありません。むしろ、厳しい状況に陥ったときこそ、コストカットの最初のターゲットとなるのが下請けです。
そこで、今までの元請けに代わる新しい取引先を探し、複数の受注先を持っておくことはリスク分散の意味でも有効です。
2.1 他の建設会社や工務店、ホームメーカーに営業をかける
飛び込み営業や電話営業、業界の人脈を活用した紹介など、営業活動を強化します。
昨今ではSNSやウェブサイトを活用する事例も増えています。あなたの施工実績をアピールし、どれだけ丁寧に仕事をしているか、どのような強みがあるかを伝えることで、新しい元請けとの接点を得ることができます。
2.2 複数の元請けと取引をすることで、仕事を分散させる
仮にA社の仕事が減った場合でもB社やC社との取引があれば、売上をゼロにしなくて済みます。
価格交渉の面でも一社に依存しない体制を作ることができれば、「低すぎる単価で引き受けないと仕事がなくなる」という状態を回避できます。
2.3 以前の元請けとの交渉スタンスが変わる
新しい元請けとの取引が軌道に乗り始めると、従来の元請けとの関係を「完全に切るかどうか」という判断を迫られることもあります。
というのは、元請け側は「うちの仕事を優先してくれないなら、こっちはもっと安くやってくれる下請けを探す」とプレッシャーをかけてくる可能性があるからです。
もしあなたに十分な代替の仕事があれば、過度に相手の意向に振り回されることなく交渉ができます。しかし、逆に軌道に乗る前はどちらの仕事を優先すべきか、慎重な判断が求められます。
この道を選んだときの最大のメリットは、「ひとつの元請けに依存しない体制を作れる」という点です。複数の取引先を持てば、急な仕事のキャンセルや単価の引き下げ要求があっても、最悪の事態を回避できるでしょう。
ただし、新規開拓には営業力や時間が必要ですし、場合によっては設備投資や人材配置の見直しも必要となってきます。加えて、「値段しか見ない元請け」に当たってしまったら、また同じような交渉の繰り返しにもなりかねません。
いずれにしても、塗装業界は常に「下請けはコストカットの対象」になりやすい面があります。下請けである限りは、価格競争や景気変動から逃れることは難しいでしょう。
そこで第三の道として浮かび上がるのが、「自社物件を増やし、最終的には自分が元請けになる」という選択肢なのです。
3. 自社物件を増やして最終的には自分が元請けになる
ここまでの1と2の道に納得がいかない、もしくは「ずっと下請けで翻弄されるのは嫌だ」と思う方が踏み出すべきなのが、この“第3の道”です。
つまり、自分で直接お客さんから仕事を受注し、元請けとなることを目指すのです。もちろん、最初から大手並みの案件を請け負うのは難しいかもしれません。
しかし、地域の個人宅や小規模店舗などの塗装案件であれば、あなたの技術や人脈を活かして直接契約を取ることは十分可能です。
3.1 自分が元請けになるメリット
➀スケジュール管理の自由度が高くなる
元請けからの仕事の場合、スケジュールや工事期間が決められており、自分の都合で動きにくい面があります。自社物件なら、自分が直接お客さんとの工程を調整できるため、複数の案件をバランスよく進めやすくなります。
➁売上・利益が上がる可能性が高い
元請けを通さない分、中間マージンを取られることがなくなります。これにより同じ仕事量でも売上が増し、純粋な利益率が上がるのが大きな魅力です。
その分、営業や打ち合わせ、工事管理を自分で行う必要はありますが、経営の安定を考えるならプラス面が大きいです。
➂利益を上げて人件費に還元できる
収益が増えれば、あなた自身だけでなく、助っ人や社員に適正な報酬を支払うことができるようになります。優秀な人材を集めやすくなり、人手不足に陥ったときでも対応しやすくなるでしょう。
➃優秀な人材を確保しやすい
給与面などの待遇が良ければ、腕のいい職人や信頼できるスタッフが集まりやすくなります。チーム力の向上はさらに高品質な仕事を生み出し、結果的にお客さんからの評判も上がり、新規案件やリピート契約へと繋がっていきます。
➄信頼が高まればリピート率が上がり、紹介も増える
元請けを介さず直接契約したお客さんに満足してもらえれば
「知り合いの家もお願いしたい」
「実家の外壁も塗り直したい」
など、自然な形で口コミが広がりやすくなります。これが企業としての強固な基盤となり、景気の波に左右されにくくなるのです。
3.2 なぜ多くの人がこの道を選ばないのか
誰もが「第3の道」が魅力的だと感じるはずですが、現実にはなかなか踏み出せない人が多いのも事実です。
その理由の一つは、「自社物件を増やすのは難しい」という思い込みが強いからでしょう。長年下請けをしてきた方ほど「営業経験がない」「自分でお客さんを見つけるのは大変だ」という意識があり、「どうせ無理だ」と最初から諦めてしまうことがあります。
また、下請けの仕事をある程度確保している状態で、新しい取り組みのための時間や労力を割くのは簡単ではありません。
現場仕事を終えて帰ってきた頃にはクタクタで、「新規顧客獲得のためにSNSを更新しよう」「ホームページを作ってみよう」という余裕すら持てない、という声もよく耳にします。
しかし、「いつか元請けに戻りたい」「自分の会社をもっと伸ばしていきたい」という気持ちを持っているなら、ぜひとも行動してほしいのです。
なぜなら、「待っているだけでは何も変わらない」からです。景気や業界の流れに左右され続ける状況から抜け出すには、多少のリスクを負ってでも自分からお客さんにアプローチしていく必要があります。
第3の道を選んで元請けになるためのキーポイント
この自社物件を増やす道を選ぶうえで、ぜひ取り組んでほしいのがホームページによる集客です。
大手の同業他社との競合は、テレビCMや大規模な広告宣伝などでは正直勝ち目がないかもしれません。大手は潤沢な広告予算とブランド力があるからです。
しかし、あなたの地域のお客さんが本当に求めているのは「巨大企業の看板」だけではなく、「信頼できる塗装業者」や「地元で評判の職人さん」に依頼できる安心感だったりします。
ホームページ集客のメリット
➀地域や見込み客のターゲットを絞りやすい
大手の広告は不特定多数に向けて広範囲に行われることが多いですが、ホームページでは自分の会社がカバーできる地域を中心に情報を発信することができます。
たとえば
「○○市 外壁塗装」
「△△区 屋根リフォーム」
など、地域とサービスを組み合わせた検索ワードで興味を持ってもらえる可能性が高まります。
➁実績やこだわりを丁寧に紹介できる
ホームページは、文章や写真、動画などさまざまな形式であなたの仕事への想いや実績を伝えるのに最適なツールです。
これまでに施工した物件のビフォーアフターを載せたり、お客さんの声を紹介したりすることで、訪問者に「ここに頼むと安心できそう」と思ってもらえる要素を増やせます。
➂24時間365日、自分の代わりに営業してくれる
現場作業や打ち合わせであなた自身が動いている間でも、ホームページは休むことなくネット上であなたの会社をアピールし続けてくれます。
もし問い合わせフォームなどを設置しておけば、営業時間外でも興味を持ったお客さんからメッセージを受け取ることができ、次の日に対応すればいいのです。
➃広告費がテレビや紙媒体よりも比較的安価
紙のチラシやテレビ・ラジオCMと比べれば、ホームページやSNSでの情報発信は圧倒的にコストが抑えられます。
検索エンジンに対して適切なSEO対策を行うことで、時間をかけて少しずつ上位表示を狙うこともできます。長い目で見ればコスパの良い投資といえるでしょう。
➄「地域№1の塗装業者」になることは不可能ではない
こうしたホームページ活用と地道な口コミ獲得の積み重ねにより、あなたの会社が「地域で評判の塗装業者」として認知されれば、それは一種のブランドになります。
「○○塗装さんなら安心」
「あそこの塗装は丁寧」
といった評判が口コミやレビューサイトなどで広がり、結果的に高いリピート率や紹介案件を生むようになるのです。
大手企業には真似できない、地域密着型のきめ細かなサービスを強みにすれば、地域No.1になることも夢ではありません。
まとめ
突然の厳しい宣告を受けたとき、下請けという立場では不安や怒り、不満を抱えて当然です。「なぜこんな目に合わなければいけないのか」と嘆きたくなる瞬間もあるでしょう。
しかし、そこで何もしないままでは何も変わりません。大きく分けて3つの選択肢があります。
➀不満を抱えつつも安い単価で下請けの仕事を続ける
一時的には仕事の量が確保できるかもしれないが、体力・時間が奪われる消耗戦となり、将来にわたって疲弊しやすい。
➁この元請けからの仕事を減らして、別の会社の下請けに主軸を移す
複数の受注先を持つリスク分散は有効だが、新規営業や人間関係の構築に時間と労力が必要。どの元請けも下請けには価格競争を強いる可能性は常に残る。
➂自社物件を増やし、最終的には自分が元請けになる
営業や工事管理、アフターサービスも自分で行う必要はあるが、直接受注による利益率アップや自由度の高い経営が可能になる。
ホームページを活用した地域密着型の集客で、個人や中小企業でも十分に戦える。
特に「いつかは自分が元請けになりたい」という想いを持っている方にとって、第3の道は大きなチャンスです。
下請けのままでは永遠にコストカットのプレッシャーから逃れられないかもしれませんが、自分が元請けになれば、工事のクオリティとサービスの充実で正当な評価と報酬を得ることができます。
そこにたどり着くまでの道のりは決して楽ではありませんが、ホームページという強力な武器を使いこなし、丁寧で誠実な施工を実践することで必ず道は開けるはずです。
何より大切なのは、「自分にはできない」と最初から思い込んで諦めないこと。
下請けの立場で積み重ねてきた技術や経験は、必ず自社案件を獲得する際にも活きてきます。
「お客さんの立場に寄り添い、良い施工を提供したい」という純粋な気持ちを、ぜひ届けるためにも、あなたの仕事ぶりや会社の魅力を発信してください。
そうすれば、きっと次のステージに進むきっかけが掴めます!