先日「売上3億円を目指したいんです!」と、愛媛の塗装業者さんから相談を受けました。
もちろん、売上を伸ばす方法はいくらでもありますね。
広告費を投じ、職人を増やし、現場を効率化すれば、数字としての「売上」は上がっていきます。
しかし僕は、その場で一つ質問をしたんです。
「売上3億円の先に、何があるんですか?」
返ってきた答えは「沈黙」でした。
つまり、多くの経営者が「数字」だけを目標にしてしまい、その先にある未来像を描けていないのです。
今回、塗装業者に限らず小規模事業者にとって「売上を目指すこと」の落とし穴と、本当に目指すべきものについて深掘りしていきます。
目次
売上を増やすと固定費も膨らむ現実
「売上を倍にしたい」と考えるのは簡単ですが、その裏には必ず「固定費の爆上がり」が待っています。
・職人を増やさないといけない
・事務所を広くする必要が出てくる
・車両を増やさなければならない
・保険や福利厚生などの費用が膨張する
・広告費も比例して増える
たとえば売上を2億円から3億円に伸ばそうとした場合、単純に「1億円の売上増」で利益が増えるわけではありません。
むしろ、人件費や管理コストが増えることで「思った以上に利益が残らない」構造に陥ることが多いです。
職人を増やすと抱える問題も増える
塗装業は「人」がすべての仕事ですね。売上を伸ばすには職人を増やす必要がありますが、人数が増えると必ず「問題」も増えていきます。
・新人の教育コストがかかる
・経験不足による施工ミスやクレーム対応が増える
・スケジュール調整や現場管理の手間が倍増する
・職人同士のトラブルが増える
これまで社長自らが現場を見て品質を担保していたのに、人数が増えると「現場を見る社長」から「現場を回す社長」へと役割が変わってしまいます。
現場第一で始めた仕事なのに、気づけば「人の問題ばかりに追われている」という状況になりかねません。
売上目標は社員と家族に共有されているか?
社長にとって「売上3億円」という目標は、夢や挑戦のシンボルかもしれません。
しかし、社員にとっても同じでしょうか?
「もっと大きな会社にしたい」という思いは、社長だけのものであることが少なくありません。
社員は「安定して働きたい」「休みを確保したい」という考えを持っているかもしれません。
さらに言えば、社員の家族までその目標を共有しているでしょうか?
休日出勤や長時間労働が増えたとき、その負担は社員本人だけでなく家族にも及びます。
つまり、売上目標は「社員全員+その家族」まで巻き込む大きなテーマなのです。
ではなぜ離職率が高いのか?
建設業・塗装業界は、他業種と比べて離職率が高いと言われます。
理由は明白です。
・長時間労働が多い
・休みが取りづらい
・将来への不安
・給料が安い
ここに「売上至上主義」が加われば、離職はさらに加速しますね。
「数字のために働かされている」と感じた社員は、いずれ会社を去っていきます。
いくら採用活動をしても、出入りが激しい職場では人材が定着せず、悪循環を繰り返すことになります。
売上を追うことは多くの犠牲の上に成り立つ
大きな売上を作るということは、決して社長一人だけの力ではありませんね。
社員、協力業者、そしてその家族の支えの上で成り立っています。
つまり「売上を追うこと」は、多くの人たちの犠牲の上に築かれるものなのです。
その犠牲は、時間、健康、家族との関係など、数字では測れない大切なものばかりです。
果たして「売上3億円」が、その犠牲を払ってまで手に入れる価値のあるものなのでしょうか?
売上をあえて目指さない選択
多くの経営者は「売上は伸ばすもの」と考えがちですね。
しかし実は「売上をあえて目指さない」という経営方針こそ、長く続ける秘訣になると思うんです。
なぜなら、売上を追うと「拡大」ばかりが正解のように思えてしまいますが、拡大には必ずリスクと犠牲が伴うからです。
・店舗拡大や設備投資をしなくていい
大きなローンを抱える心配がなく、経営の身軽さを保てる。
・職人を無理に増やさなくていい
採用や教育に時間を奪われず、気心知れた少人数で仕事を回せる。
・大規模案件を無理に追わなくていい
自分の得意分野、信頼できる顧客層に集中できる。
・自分の時間をコントロールできる
休日をしっかり取り、家族や趣味の時間を大切にできる。
たとえば「月に◯件だけ施工を請け負う」と決めてしまえば、無理に売上を伸ばさずとも生活は安定します。
その分、品質に集中でき、お客様との信頼関係も築きやすいのです。
さらに、売上を追わないことで 「心の余裕」 が生まれます。
・雨の日に焦って無理に工期を進める必要がない
・多少の不況でも赤字に転落しにくい
・急なトラブルにも柔軟に対応できる
つまり、売上を追わないことは「負けないための戦略」でもあるのです。
経営のゴールは「数字」ではなく「幸せな働き方の実現」です。
売上を目指さない選択は、そのための一つの大切な方法と言えるんです。
売上ではなく利益を目指す
では、何を目指すべきか。
それは「売上」ではなく「利益」です。
売上3億円あっても、利益が少ないと意味がありません。
一方で、売上1億円でも利益がしっかり残れば、経営は健全ですね。
利益を残すことで、
・休みが取れる
・健康を守れる
・家族との時間を持てる
・職人や職場環境に投資ができる
という「本当の豊かさ」を手に入れることができます。
予測不能な時代に備える
さらに考えなければならないのは「未来の不確実性」です。
10年前後のスパンで、大きな災害や経済の変動が必ずやってきます。
・リーマンショック
・東日本大震災
・新型コロナウイルス
これらの出来事は、誰も予測できませんでした。事業を大規模化すればするほど、不測の事態に弱くなります。
小規模経営だからこそ、変化に柔軟に対応できるという強みがあります。
ひとり/小規模業者という選択肢
「ひとり親方」「小規模業者」というスタイルは、確かに大きな儲けは出にくいかもしれません。
しかし、その代わりに「負けない経営」ができます。
固定費がほとんどかからない
事務所を借りなくても、自宅や倉庫からスタートできますね。
広告費を無理にかけなくても、紹介や口コミで仕事が回るケースも多いです。
経営の自由度が高い
「今日は子どもの行事があるから休む」「雨の日は無理せず作業を調整する」といった柔軟な働き方が可能です。
誰かに強制されるのではなく、自分でスケジュールを組めることが魅力なんです。
お客様に寄り添いやすい
大手のように営業担当と職人が分かれていないから、問い合わせから施工まで一貫して自分で対応できる強みがあります。
信頼関係が築きやすく、リピートや紹介につながることが多くなります。
変化に強い
大規模組織だと急な不況や災害に弱いが、小規模なら支出を抑えながらしぶとく生き残れます。
「すごく儲からないけど負けない経営」という表現がぴったり当てはまりますね。
また、ひとり/小規模業者は 「幸せの形」を自分で決められる という特権があります。
・年収よりも「家族と過ごす時間」を優先したい
・現場数は少なくても「お客様に満足してもらえる仕事」をしたい
・無理に拡大せず「地元で長く愛される業者」でありたい
こうした価値観を尊重できるのが、小規模経営の一番の魅力です。

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本当に大事なのは「数字」ではなく「幸せの形」
最後に改めて強調したいのは、売上3億円を目指すこと自体が悪いわけではないということなんです。
挑戦することは素晴らしいことですし、実際に実現している企業もありますね。
しかし、その「数字の先」に何があるのかを描けなければ、ただの自己満足や空虚なゴールになってしまいます。
・売上を伸ばすほど固定費や問題が膨らむ
・社員や家族とのビジョン共有が欠ければ離職が増える
・多くの犠牲の上で成り立つ売上は幸せを奪う
だからこそ、これからの時代は「売上至上主義」から「利益と幸せの両立」へとシフトしていく必要があります。
数字ではなく、自分自身・社員・家族にとっての「幸せの形」を考える。
そのうえで経営を続けることが、何よりも価値あるゴールではないでしょうか。
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