よく下請け業者から言われることがある。
「仕事をもらえるだけありがたい」
この言葉は、実にまじめで、実に日本人的で、そして少しだけ危ない。
もちろん、仕事をいただけることに感謝するのは大切だ。
元請け会社から声がかかり、現場があり、日当が出る。
明日の予定が埋まっているというのは、職人にとって安心である。
ただ、この安心というものは、なかなか曲者だ。
気づけば、いつの間にか自分の中に小さな座布団を敷いて、
そこにちょこんと正座している。
「金額は決められるもの」
「条件は言われた通りにするもの」
「仕事は来るのを待つもの」
こうなると、もう立派な下請けマインドである。
本人は謙虚なつもりでも、外から見ると少し違う。
まるで、飲食店に入ったのにメニューを開かず、
「店長、おすすめで」と言っているようなものだ。
もちろん、おすすめが美味しければいい。
でも毎回、唐揚げ定食のご飯少なめ、
味噌汁ぬるめ、しかも値引き付きだったらどうだろう。
「いや、今日は自分で選びたいです」
そう言いたくなるはずだ。
塗装業者も同じである。
下請け仕事だけに慣れていると、
知らないうちに「仕事を選ばれる側」ではなく、
「仕事をもらう側」の感覚が染みついてしまう。
元請け会社から連絡が来る。
指定された金額で動く。
言われた工期に合わせる。
追加の話も、なぜか空気で飲み込む。
そして夜、缶ビールを飲みながら思う。
「自社案件、増やしたいなあ」
気持ちはよくわかる。
しかし、ここで大事なことがある。
自社案件は、向こうから
玄関のチャイムを鳴らしてくれるわけではない。
「すみませーん、元請け案件です。今日から御社にお願いしたくて来ました」
そんな都合のいい訪問者はいない。
いたら逆に怖い。インターホン越しに一度疑った方がいい。
自分で食べていくためには、
仕事をもらう側から、選ばれる側に変わる必要がある。
そのためには、まずお客様に見つけてもらわなければならない。
どれだけ腕が良くても、
どれだけ丁寧に塗っても、
どれだけ現場で汗を流しても、
外から見えなければ伝わらない。
客は、あなたが足場の上でどれだけ真面目に作業しているかを知らない。
養生の美しさに涙する施主様も、そう多くはない。
今の客は、まずスマホを見る。
ホームページを見る。
施工事例を見る。
口コミを見る。
SNSを見る。
代表の顔を見る。
そして心の中で静かに思う。
「この会社、大丈夫そうかな」
この“大丈夫そう”を作ることが、元請け化の第一歩なのだ。
そのためには、施工事例を発信する。
お客様にわかりやすく説明する。
口コミを集める。
ホームページやSNSで信頼を作る。
自分の会社の強みを、ちゃんと言葉にする。
「うちは腕で勝負です」
これは素晴らしい。
しかし、客からすると少し困る。
腕は、見えない。
見えない腕を信じるには、材料がいる。
施工写真、口コミ、説明、保証、人柄、対応の丁寧さ。
そういうものがあって初めて、
「この会社に頼んでみようかな」と思ってもらえる。
下請けマインドのままだと、つい待ってしまう。
誰かが仕事をくれるのを待つ。
誰かが紹介してくれるのを待つ。
いつか自社案件が増えるのを待つ。
でも、待っているだけでは、なかなか変わらない。
待つ姿勢は美しい。
だが、商売では少々地味すぎる。
元請けを目指すなら、少し前に出る必要がある。
前に出るといっても、偉そうにすることではない。
自分たちの仕事を見えるようにする。
選ばれる理由を伝える。
客が安心して相談できる場所を作る。
それだけでいい。
下請け仕事が悪いわけではない。
ただ、ずっと「もらう側」のままでいると、
自分の会社の未来を相手任せにしてしまう。
価格も、条件も、仕事量も、相手次第。
それでは、いつまでたっても落ち着かない。
自分で食べていきたいなら、まず意識を変えること。
仕事を待つ職人から、選ばれる塗装業者へ。
言われた仕事をこなす会社から、相談される会社へ。
下請けマインドを捨てるというのは、偉そうになることではない。
自分の仕事に、ちゃんと値段をつけること。
自分の強みを、ちゃんと伝えること。
お客様に、ちゃんと見つけてもらうこと。
その一歩を踏み出したとき、
会社の見え方は少しずつ変わっていく。
そしてある日、ふと気づく。
「あれ、仕事をもらうだけじゃなくて、選ばれるようになってきたかもしれない」
その瞬間こそ、下請けマインドを脱いだ日である。
少し窮屈だった作業着を一枚脱いだような、そんな気分になるかもしれない。

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