「とにかく回れば、どこかで当たる」
この言葉には、どこか昭和の根性論の香りがする。
暑い日も、寒い日も、雨の日も、インターホンを押して歩く。
断られても、また次の家へ行く。
門前払いされても、また別の通りへ向かう。
その姿勢は、たしかに立派である。
根性もある。体力もある。足腰も強くなる。
ただし、ここで一つ問題がある。
客の方は、別にあなたを待っていない。
むしろ、突然インターホンが鳴った瞬間、家の中ではちょっとした緊張が走る。
「誰?」
「宅配?」
「また営業?」
「屋根が浮いてますって言われるやつ?」
こうして、玄関に出る前から、すでにこちらは少し不利な立場にいる。
昔は、訪問営業でも話を聞いてもらえる時代があった。
玄関先で世間話をして「じゃあ一度見てもらおうか」となることもあった。
しかし今は違う。
悪質な訪問業者のニュースも増え、客の警戒心はかなり強くなっている。
インターホンを押しただけで、こちらはまだ何もしていないのに、心の中で少し疑われている。
これは、なかなか切ない。
職人としては、まじめに仕事をしている。
嘘をつくつもりもない。
必要のない工事をすすめる気もない。
それなのに、玄関先では「怪しい人かどうか」の審査から始まる。
まるで初対面なのに、すでにマイナス二十点からのスタートである。
「こんにちは、塗装のご案内で」
と言った瞬間、奥から聞こえる。
「今、忙しいです」
本当に忙しい場合もある。
でも、たぶん忙しくなくても忙しい。
人は営業を断るとき、急に全員忙しくなるものだ。
もちろん、営業そのものが悪いわけではない。
自分から動くことは大切だ。
待っているだけでは仕事は増えない。
地域を回ることで、会社名を知ってもらえることもある。
ただ、飛び込み営業だけに頼るのは危険である。
なぜなら、今の客は、会う前に調べるからだ。
インターホン越しに会社名を聞いたら、あとでスマホで検索する。
ホームページを見る。
施工事例を見る。
Googleマップの口コミを見る。
SNSで雰囲気を見る。
そこで何も出てこなかったら、どうなるか。
客は思う。
「本当にこの会社、大丈夫かな」
これは非常にもったいない。
せっかく足を使って回っても、ネット上に安心材料がなければ、問い合わせにつながりにくい。
飛び込みで顔を出しても、検索された先が空っぽなら、まるで名刺だけ立派で中身のない財布のようなものだ。
自社案件を増やしたいなら、訪問する前に「この会社なら安心できそう」と思ってもらえる状態を作ることが大切だ。
たとえば、ホームページに施工事例を載せる。
Googleマップの口コミを増やす。
SNSで現場や人柄を発信する。
チラシで地域に会社名を覚えてもらう。
LINEで見込み客とつながる。
こうした準備があると、飛び込み営業の見え方も変わってくる。
ただの突然来た人ではなく、
「あ、どこかで見たことある会社かも」
「ホームページに施工事例が載っていた会社だ」
「口コミも悪くなさそうだったな」
そう思ってもらえる可能性が出てくる。
この差は大きい。
人は、知らないものには警戒する。
でも、何度か見たことがあるものには、少しだけ心を許す。
スーパーで知らないメーカーの漬物を買うより、見たことのあるパッケージを手に取る。
それと同じである。
塗装業者も、まずは「見たことがある」「ちゃんとしていそう」と思ってもらうことが大切だ。
飛び込み営業一本で戦うのは、今の時代、少ししんどい。
それは、スマホ時代に黒電話だけで勝負するようなものかもしれない。
味はある。根性もある。
でも、少し不便である。
これからは、営業に行く前に、見つけてもらう準備をする。
会う前に、信頼してもらう材料を用意する。
断られる前提ではなく、相談される流れを作る。
飛び込み営業を完全に否定する必要はない。
ただ、それだけに頼ってはいけない。
足で稼ぐことも大切。
でも今は、ネット上にも足跡を残す時代である。
仕事を取りに行く会社から、問い合わせが来る会社へ。
インターホンを押す前に、まずは客が安心して検索できる会社になっておくこと。
それが、今の時代の元請け化への第一歩なのだ。

コメント